2008年 02月 05日
2月、東京都多磨市にしては、出歩くのが億劫になるくらいの雪が積もった。3年ぶりだろうか。昨日の夜中から降り始めた雪は、朝まで降り続け10cmほど絨毯を道一杯に敷き詰めた。
徹夜での第三回ハーゲンダッツ争奪麻雀は僕の勝ちで幕を閉じ、徹夜と座り続けたことで気だるい身体を引きずって守屋の家を出たときに、僕らは初めて雪が積もったことに気づいた。
「めんどうだな。」西原はマルボロライトを細く吐き出してから言った。
「昼まで寝てく?」玄関の前まで見送りに来た守屋は言った。両腕をしっかり身体に巻きつけている。部屋着のままだ。寒いだろう。
「や、昼からバイトなんよ。」
「バイト先、こっからの方がちかいじゃん。別にいいんじゃない?」
「制服が家だからさ。」西原は煙草を灰皿でもみ消しながら言った。西原の家はアパートの廊下の突き当たりで、そこには共用の灰皿が置いてある。
「コウとケントクはどうする?俺は帰るけど。」
「西原帰るなら帰るよ。早くコンビニでダッツ買いたいし。ケントクは?」何を隠そう、ハーゲンダッツが僕は大好きだ。しかも季節限定ものがでたばかりだったので、僕はわりかしハイテンションだった。
「俺も帰るかなー。」ケントクは伸びをしながら言った。最後の最後に僕の清一色で飛ばされたことをさっきまで不満げだったが、今は眠そうだ。
「じゃ、そういうことで。」
「あいよ、おつかれさーん。」守屋は玄関に引っ込みながら、身体を半分だして手を振った。
帰り道、早朝の雪道はまだ誰の足跡もなかった。僕らは最初のローテンションはどこへやら、雪を踏みしめるごとに元気になった。
「東京も雪振るのな。」
「俺のとこと同じくらいじゃない?これ。」
西原とケントクは北海道と福島の出身で、雪には慣れているらしい。12月あたりでは東京の冬は雪が降らないからいいね、東京人は楽ですね、とかなんとか皮肉まじりに言われたけど、今は妙に関心している。
「何年かに一回はこれくらい降るよ。一番降ったのは小学生のときかな。膝くらいまで積もった。」
3人の後ろには、3筋の足跡が続いている。
「やっぱさー、このへんて東京じゃないよ。あの木造の家とか、うちの周りにもあんなんないし。」西原が、道路の向かいの古い民家を指差しながら言った。
「うるせいよ。どうせ西東京ですよ。多磨県ですよ。天気予報はべつですよ。」こういうことを言われるのはもう慣れた。大学に入って初めのころ、区内から越してきた友人に「うわ、やっぱ西東京って暗いね!」と言われたときは衝撃だったけれど。本人に悪気はなくても、まったく予想してなかったことを言われると多少なりとも傷つく。同時に、自分が思っていた以上にこの土地に愛着があるのだな、とも驚いた。小さいころは、まだ僕の団地の周りにも田圃があり畑があり、森もあった。今それらはマンションになり、小さかった駅は駅ビルになり、新しくモノレールもできた。街の発展と反比例して、僕の団地の商店街は寂れていったけれど。今ではスーパーと肉屋しか残っていない。団地の広場で遊ぶ子どもたちは減って、ペット飼育禁止の看板の前で立ち話をする老人が増えた。なぜかシーズーを連れている人が多い。毛が茶色くなった、あまり洗ってもらってないシーズー。
30分ほど歩いて、西原のアパートに着いた。西原と別れ、もう少し歩いて僕もケントクと別れた。途中の自動販売機で温かいコーヒーを買って、ラッキーストライクに火をつけた。白い息を吐いて、煙草を吸って、白い煙を吐いて、コーヒーを飲んだ。コーヒーをゴミ箱に捨てて、僕は家に帰った。
昼になって目が覚めた。両親は仕事に出たあとで、時計を見てもう少し寝ようか迷ったけど、寝た時間の割には頭がすっきりしていたから布団から抜け出した。椅子にかけてあった半纏を着て、コーヒーを入れた。携帯電話を見ると、メールがあった。
『返信遅れてごめんねー!19日ならいけそうだよ!』
3日前に夕飯に誘った女の子からだった。
「お、やった。」もう返信はないものだったと思っていたから、つい口に出た。2週間後と、まだ先の話。楽しみだ。けど、どうせまた直前でキャンセルくらうんだろうなと、自分の中で予防線も張っといた。何事にも過度の期待を持たないこと。これが僕のスタンスだ。消極的だと思われようとなんだろうと、自分が傷つかないように過ごすというのは、悪くないスタンスだと思っている。こうしておけば、傷ついて立ち直る時間をとるなんて無駄なことをしないで済む。飲み会の酔った勢いでこういうことを話すと、「それは無駄じゃない。それがあるから強くなるんだ。」と説教じみたことをよくもらうけど、強くなることがそんなに大切だとは思えない。嫌なことを避ける知恵を持たないのは、野蛮人のすることだと思う。続けて、人間は嫌なことを避けるために技術を発展させてきたんじゃないか、と飛躍させた結論に結びつけることもできる。でも、実際はそこまで考えてこういうスタンスでいるわけじゃない。ただ自分に馴染むから、自然とそうなっただけだ。返信を適当に済ませて、少し冷えたコーヒーを飲んだ。暖房を入れてなかったので、コーヒーが冷えるのが早い。
# by exexeb | 2008-02-05 13:55

